旧ソ連出身フランス在住の
監督が映し出した、
国後島の《真実》とは
第二次世界大戦から76年、
北海道からわずか16キロの近くて遠い島
北海道からわずか16キロに位置し、かつては四島全体で約17,000人の日本人が生活していたという北方領土。しかし、戦後の1947年から48年にかけて引揚が行われ、今日本人は一人もおらず、日本政府は問題が解決するまで、日本国民に入域を行わないよう要請している。
戦後76年を経て、現在の国後島の様子をありのままに映し出した本作から見えてきたのは、ロシア人島民の厳しい暮らしぶりや日本に対する本音。幼少期に引揚の様子を目の当たりにした島民の当時を振り返る貴重な証言や、日本・ロシア間の平和条約締結への願い、生活苦を訴える切実な声などを、どちらにも 偏ることなく客観的かつ淡々と捉えている。両国の主張が膠着状態のまま政治に翻弄されてきた当事者たちの複雑な心境や実際の生活など、これまで我々が知らされることのなかった国後島の<真実>が明らかとなっている。
旧ソ連(現ベラルーシ)出身で現在はフランスを拠点とするウラジミール・コズロフ監督が、ロシア連邦保安庁の特別許可と国境警察の通行許可を得て撮影にこぎつけた国後島の現在とは。
監督:ウラジーミル・コズロフ Vladimir Kozlov
フランスで活動する映画監督、脚本家。1956年6月7日、旧ソヴィエト連邦(現ベラルーシ)のミンスク生まれ。ミンスク国立大学で歴史と社会科学の学位を取得してから、VGIK(モスクワ国立映画大学)に進んで助監督の資格を得る。ベラルスフィルムやモスフィルムなどのスタジオで、助監督として13年間に20本ほどの長編劇映画制作に携わる。そのなかには1985年のモスクワ国際映画祭でグランプリに選出されたエレム・クリモフ監督の『炎628』もある。
1992年、フランスに移住し、オクシタニー民衆劇場で舞台監督、俳優として活動。2002年『Musique et Couleurs du père Léonide』でドキュメンタリー映画の作家、監督として活動を始める。SCAM(マルチメディア作家の民事組合)会員。国際映画祭の審査員も務めている。
ある日、私の友人である詩人・エッセイストのミハイル・ヴォロディーヌから、クナシリについての話を聞いた。私は彼が持つ写真と記憶を通して見えてきたものに心を動かされた。それは、私が今日のロシアについて語りたいと思っていたこと、つまりその複雑さと矛盾、とりわけ国境に関する問題、外交、栄華の夢、ソ連崩壊後の不条理などにも重なった。そこで、私はクナシリへ向けて出発した。そこにたどり着くのは簡単ではない。フランスを出てから4回飛行機を乗り換え、オホーツク海を2日間、航海しなければならないのだ。そのうえ、FSB(=ロシア連邦保安庁)の特別許可と、国境警備隊の通行許可証がなければ立ち入れない国境地帯にあるのである。
撮影中に、クナシリでの先の世界大戦の存在を確認した。錆びた装甲車の残骸と、草に覆われた戦車が島中に点在しているのだ。その一方で、1947年の日本人退去の痕跡は何もない。
ここに住むロシア人たちは、まるでソ連の生き残りのようである。その共同体の中で私は、ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」の世界に入り込んだように感じた。
この場所を映画に撮ることは決して無意味ではない。住民は島の1500平方kmあまりの土地を分け合い、そこでは全員が知り合いだ。この小さい世界の人々を捉えることで、ロシアの社会全体の問題をも表すことができるのだ。
※順不同・敬称略
国後島に住む人々のリアルな生活や、日本人の強制退去が行われた当時の様子。
普段目にすることが出来ない貴重な映像の数々から浮かび上がる、「コレ、結局誰が幸せになったん?」な現実。
ある住民が語る「共存」という言葉が、遠い夢物語のように虚しく響く。
この木は日本人を記憶している。印象的なセリフだ。
クナシリの日本人の生活と艶と文化が夢のように漂う中、ロシアの人々は現実を生きている。
様々な視座から立ち上がるクナシリの今。
北方領土問題について、日本では日露両国政府がそれぞれ主張する「国益」のぶつかり合いという図式に単純化された報道しかないが、現地に住む人々の想いは、そのどちらとも違う、より生活に密着したもの。
北方領土の現状や、日露両国の「国益」の衝突に翻弄される住民の生活と境遇を知ることができる作品。
日露にとって不都合な真実が山積する島の実体を描いた意欲作。
領土問題を考える前にこの映画は必ず見るべき!
3度も開発計画が掲げられながら現実は最果ての寒村。
旧ソ連出身の監督だからこそ聞けた建前なしの棄民の声だ。
ロシア当局の宣伝映画ではない。
ベラルーシ出身の監督による素顔のクナシリが、初めて私たちの前に現れた。
勇ましい愛国主義と低劣な生活水準、これに「日本」が交錯して国後島の「不都合な真実」を暴いた力作。
コズロフ監督の描くクナシリは、 76年前の戦で時間が止まり文明が自然化したようで美しく、そして哀しい。
地域 | 劇場名 | TEL | 前売 | 公開日 |
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国っていったい何なのだろう。
『クナシリ』を観ながら、ずっと考えていた。頭をクラクラさせながら。